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ぐびじんそう
虞美人草
Read 虞美人草 (ぐびじんそう) by Natsume Sōseki (夏目 漱石) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 198,559 characters · 401 screens
燃え切った灰は、棒のままで、はたりはたりと香炉の中に倒れつつある。銀屏は知らぬ間に薫る。
「小野さんは、まだ来ないんですか」と母が云う。
「もう来るでしょう。今呼びにやりました」と欽吾が云う。
部屋はわざと立て切った。隔の襖だけは明けてある。片輪車の友禅の裾だけが見える。あとは芭蕉布の唐紙で万事を隠す。幽冥を仕切る縁は黒である。一寸幅に鴨居から敷居まで真直に貫いている。母は襖のこちらに坐りながら、折々は、見えぬ所を覗き込むように、首を傾けて背を反らす。冷かな足よりも冷かな顔の方が気にかかる。覗くたびに黒い縁は、すっきりと友禅の小夜着を斜に断ち切っている。写せばそのままの模様画になる。
「御叔母さん、飛んだ事になって、御気の毒だが、仕方がない。御諦なさい」
「こんな事になろうとは……」
「泣いたって、今更しようがない。因果だ」
「本当に残念な事をしました」と眼を拭う。
「あんまり泣くとかえって供養にならない。それより後の始末が大事ですよ。こうなっちゃ、是非甲野さんにいてもらうより仕方がないんだから、その気になってやらないと、あなたが困るばかりだ」
母はわっと泣き出した。