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みつのあわれ

蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ

室生 犀星

Read 蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (みつのあわれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,662 characters · 174 screens

Aozora Bunko

蜜のあわれ

一、あたいは殺されない

一、あたいは殺されない

「おじさま、お早うございます。」

「あ、お早う、好いご機嫌らしいね。」

「こんなよいお天気なのに、誰だって機嫌好くしていなきゃ悪いわ、おじさまも、さばさばしたお顔でいらっしゃる。」

「こんなに朝早くやって来て、またおねだりかね。どうも、あやしいな。」

「ううん、いや、ちがう。」

「じゃ何だ。言ってご覧。」

「あのね、このあいだね。あの、」

「うん。」

「このあいだね、小説の雑誌巻頭にあたいの絵をおかきになったでしょう。」

「あ、画いたよ、一疋いる金魚の絵をかいた。それがどうしたの。」

「あれね、とてもお上手だったわ、眼なんかぴちぴちしていて、とてもね。本物にそっくりだったわ。」

「頼まれて生れてはじめて絵というものを画いて見たんだよ。本当は絵だか何だか判らないがね。」

「あたいにも、そのうち一枚画いていただきたいわ。」

「絵は画こうとしたって却々、画けるものではないよ。君から見ると似ているかどうかね。」

「よく似ていたわ、それでね、あれから後に、一週間程してから、雑誌社からお礼のお金が書留で着いたでしょう。」

「これも生れてはじめて画料というものを貰ったのだが、それがどうかしたかね。