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われはうたえども やぶれかぶれ
蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ
室生 犀星
Read 蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ (われはうたえども やぶれかぶれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,726 characters · 90 screens
私は廊下から土間をとび越える時に背後で奥テル子の部屋の電灯が、突然に点いて肩先からかがやいて落ちた。やはり起きていたのか、さらに湯殿の前の板の間に出たとき、節マリ子の部屋の電灯もやはり廊下を明るくするために点けられた。懐中電灯の乏しい光では土間は渡れないことがあるのだ。私は庭に下りると石垣にそうて跼んだ。
咳が酷いのでその反射痛が左の背中にあらわれ、物をいうと咳きこんで言葉がきれぎれになった。まるで言葉がまとまらない、私は、ばばばといったりひいひい言ったりするだけで、腰を折り手で畳をささえ、咳のおさまるのを永い間待ったが、その苦しい間に煙草の要求が烈しく起った。ひどい心配事のあるときに煙草がのみたくなる、あの心理なのだ。咳の小歇みのあいだにただ一つの救いである煙草を一服やろうと、私は煙草に火をつけた。そんな物をうけつける筈がないのに、それをとおそうとするのだ。馬鹿の骨頂なのだ。間もなく煙にむせ返って咳は巻き返して、のた打ち廻った。併しその一服の煙のうまさはどうしても通さなければならない無理無体な要求となって来た。これが私の一等いけない癖で苦しむことが判っても、其処を突き抜けて一服やってもそれが死因になるとか、生涯のあとの分に大した影響はあるまいというやけくその想念であった。