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われはうたえども やぶれかぶれ
蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ
室生 犀星
Read 蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ (われはうたえども やぶれかぶれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,726 characters · 90 screens
この清潔無類の病院では個室にも何処にも瓦斯や電気はつかえないことになっている。お湯は洗面所に煮え立っているがお粥とか、さかなの温め物はどうしても配膳部の配膳の終った頃に行って、お願いして瓦斯の火を借りるのが井荻看護婦のいやな仕事であった。二人のおばさんは何十人もの食膳をととのえると、それをステンレス張りの軽快な手押車に乗せて廊下に送り出すのであるが、それだけで彼女らは椅子の上に腰をおろすと物を言う気も物憂く疲れが酷い、そんな手のすいた時なら井荻看護婦は叱られなかったが、彼女が料理最中にうろうろされることは全く料理の味加減にもとがめる眼ざわりであった。だからおばさん達の仕事が済んでしまってから井荻は相子の持って来たさかな、スープの類をあたために行くのだが、それは少女奥テル子には井荻のようにぴしぴしやれない時間を切りつめた厨仕事だった。私は井荻に帰られるとこのたいせつな食事の行き詰りをおそれ、井荻のように世なれた女でないと大病院でのさまざまなやりくりが、なめらかに行かないことを知っていたから、ひら謝りに謝ったのである。
井荻看護婦は朝八時に来て夜の八時に派出会に戻ったが、朝の早い私はパンと牛乳を焼いたり温めたりする時間が、朝の八時の彼女の出勤後でないと出来ないので、寝台の上で八時という時間をあさましく待ちもうけ