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われはうたえども やぶれかぶれ
蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ
室生 犀星
Read 蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ (われはうたえども やぶれかぶれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,726 characters · 90 screens
井荻看護婦がいった。それごらんなさい、あんなお優しい顔をなさるじゃございませんかと言い、私はあなたはあの男の看護婦になって居ればいいんだ。間違って私の所に来たのだと言うと、井荻はまっぴらご免だ、あの眼球で毎日ぎょろりと見られたらたまらないと初めて本音を吐いた。
極端にきれい好きなこの病院の後架に私はつとめて通うようにしたのは、もう四ヵ月も床についていて足の利かなくなることを怖れたからだ。乳白のタイル張りは永い間見詰めていると紫色の彩感が突っ走り、タンクの水勢は谷川のへりに跼んでいるように聴える。それに私は毎日蓄尿を命じられ大きな瓶に一々尿のあるごとに、そそいでためていた。十八個ならんでいるこれら蓄尿瓶に一々その患者の名札が提げられ、どれも尿の色が死色になっても変っていない、或る尿は殆ど青い木の葉の色をしていて、それが服薬のせいだと判っていても、私にはこのみどりの尿がどれよりも悲しく眼にはいった。これが尿の色であるかと思えるくらい、水にひとしい尿色を見ても感慨はなかったのだけれど、みどり色にはまいって了った。これら尿の瓶の列を見ることは生きている証拠であって、ここではたすからない人の尿はなかったのだ。