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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
Read 血曼陀羅紙帳武士 (ちまんだらしちょうぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,970 characters · 176 screens
「不都合とはどういう訳か」と、怪訝そうに訊いたのは、それと向かい合って、片膝を立て、盃をチビチビ嘗めていた、山口という三十年輩の武士で、「只で泊めて貰い、朝酒、昼酒、晩酌まで振る舞われて、まだ不平なのか」
「そうではない。縁も由縁もない我らを、このように歓待してくれながら、主人が顔を出さぬのは不都合……いや、解せぬというのじゃ」
「それは貴公、世間の噂を知らぬからじゃ」
と云ったのは、膝の前にある皿の肴を、なお未練らしくせせっていた、五十五、六の、頬髯を生やした、望月角右衛門という武士で、「世間の噂によれば、薪左衛門殿は、ここ数年来、誰にも逢わぬということじゃ」
すると、二十五、六の、南京豆のような顔をした、小林紋太郎という武士が、「それは何故でございましょうかな? ご病気なので? それとも……」
「解らぬ」と、角右衛門が云った。「解らぬのじゃ。さよう、病気だとの噂もあれば、いつも不在じゃという噂もある」
「いよいよ変じゃ」と云ったのは、片岡という武士で、「そういう薪左衛門殿が、見ず知らずの浪人でも、訪ねて行きさえすれば、泊めてくれ、ご馳走をしてくれるとは……」