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あかいうし
赤い牛
田中 貢太郎
Read 赤い牛 (あかいうし) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 743 characters · 2 screens
長野県の上田市にある上田城は、名将真田幸村の居城として知られているが、その上田城の濠の水を明治初年になって、替え乾そうと云う事になった。そして、いよいよその日になると、附近の人びとは好奇心に駆られて、早朝から手伝いやら見物やらで押しかけて来た。
その日は朝からからっと晴れた好天気で、気候も初夏らしく温い日だったので、人びとはお祭り騒ぎで替え乾をはじめた。そのために作業はずんずんはかどって、水が減るに従って大きな鯉が躍りあがったり、大鯰が浮いたりして、濠の周囲には至るところに喊声があがった。
その日私の父も、面白半分その手伝いに往っていたが、正午近くなって濠の水が膝の下ぐらいに減った時、父の周囲にいた人びとが異様な声を立てた。見ると父のいる処から三間ばかり前の方に当って、一ところ水が一間半ばかりの円を描いて渦を巻いていた。
(何だろう)
と、父が思った瞬間、物凄い水音を立てながら、その渦が盛りあがると思う間もなく、全身真紅の色をした動物が半身を露わした。それは、額に太い二本の角のある大きな牛であった。人びとは驚いて逃げ出そうとしたが、牛の方でも驚いたのか、濠から駆けあがって、千曲川へ飛びこみ、箭のようにその流れを泳ぎ渡って、小牧山を乗り越え、それから須川の池へ身を隠してしまった。