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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

Read 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 22,626 characters · 45 screens

Aozora Bunko

「呆れた野郎だ」と卯兵衛が云った、「そんなことを云って、屋根を踏み抜きでもすると承知しねえぞ」

屋根の上の男がなにか云い返したが、「うへえ」という言葉しか聞きとれなかった。卯兵衛は舌打ちをし、まだ狭い路地の中でふざけている子供や、軒下で魚を焼いている女房などに小言を云いながら、去定たちを十兵衛の住居へ導いていった。

十兵衛は四十一歳、おみきという妻に、おとめという七歳の女の子があり、十兵衛は古くから小間物の行商をしていた。馬喰町に森口屋といって、足袋、股引、小間物などの卸屋がある。十兵衛はその店で勤めあげたが、二十一でお礼奉公の終るちょっとまえ、女に騙されてかなり多額な金を遣いこんでしまった。それで暖簾を分けて貰うこともできず、十年ちかい奉公を水の泡にして、その店を逐われた。店の主人の情けで、繩付きにはならなかったが、それから五六年のあいだは職を転々と変え、蕎麦屋の出前持ちをしているときに、おみきと知りあって夫婦になった。世帯を持つとなると肚もきまり、馬喰町の店へいって事情を話した。森口屋の主人は承知をし、六十日限で品物を貸してくれることになった。