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あかごうしくろうえもん
赤格子九郎右衛門
国枝 史郎
Read 赤格子九郎右衛門 (あかごうしくろうえもん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,484 characters · 29 screens
ふと忠清は話のついでに斯う九郎右衛門に訊いて見た。
すると、九郎右衛門は、大きな眼を、心持細く窄めたがそれは過ぎ去った遠い昔を、想い返えそうとする表情なのでもあろう。
「仲々もって左様な事……」
と、謙遜に彼は首を振ったが、
「取り分け香港に於きまして、〈黒仮面船〉の猛者どもに、おっ取り巻かれました其時は、此九郎右衛門心の底より恐ろしく思いましてござります」
「なに、香港の〈黒仮面船〉とな? それは一体何者じゃな?」
「不思義な海賊にござります」
「ほほう海賊? 支那の海賊かな?」
「ところが、支那人ではござりませぬ」
「どうやら話は面白そうじゃ。ひとつ詳細に話して貰いたいの」
「心得ましてござります」九郎右衛門は斯う云って、夫れから其話しを話し出した。
それは今から四十六年の昔、元和七年の初夏の事で、その時私は男盛りの四十歳でござりましたが、宗室丸の船頭として、南洋に向かって出帆致しました途次、予定の寄港地たる香港の港へ碇泊り致しましたのが事の発端で、其夜私は東六という若い楫取を供に連れて港へ上陸いたしました。
ご承知の通り香港は、支那大陸の九竜とは指呼の間にござりまして、小さい孤島ではござりますが、其湾内は東洋一、水深く浪平に、誠に良港でございますので、各国の船は必ず一度は、其処へ泊まるのでございます。