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おどるちへいせん
踊る地平線(上)
谷 譲次
Read 踊る地平線(上) (おどるちへいせん) by 谷 譲次 (たにじょうじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 168,926 characters · 332 screens
そのタキシを駆ってその宵闇のなかを東支倶楽部へいそぐ。トルトウスカヤ女史のひきいる露西亜舞踊団の公演を見ようというのだ。
倶楽部の演芸場にも「世が世ならば」の群集があふれて、赤を呪う白の人々と、支那政府の眼をくぐって白の動きを見守る赤の密偵と、赤系と白系が縒りまざってまるで理髪屋の標柱のような哈爾賓の社会相が、ここにそのままの縮図を見せているのだった。何というもの淋しい「過去と未来を同時に呼吸する群」であろう! いまだにニコライ・ロマノフの写真を飾って上帝に十字を切る一団、北東の秘密活動本部をここへおく第三国際の宣伝員、すべての主義と世の動きとをよそに在りし日を夢みる階級――それらの露西亜人とその家族たちが、しばらく政治と闘争と謀策を中止して一夜の受楽のためにこうして集っているのだ。これでも大きな社交的出来事のひとつとみえて、タキシイドの男と粗末なデコルテがあちこちに見受けられるが、無理にも場合を作って明るい宵を持とうとする彼等の努力に、泪ぐましい泣笑いがひそんでいる。じっさいこの町に住む露西亜人は、片っぱしから「槍は錆びても」の心意気なのだ。だから、莫大な体躯といかめしい鬚と灰色の眼とをもつ格蘭得火太立旅館の老小使ミシェルは、むかし国境防備軍団の旅団長として皇帝と同じ食卓で茶を喫んだ記憶を秘蔵し、ボルシチ