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みがわりのはなよめ
身代りの花嫁
野村 胡堂
Read 身代りの花嫁 (みがわりのはなよめ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,685 characters · 22 screens
閃光と同時に短刀は胸へ
「おや、誂向ですぜ。窓際で、向う向いたまま編物をして居る――」
「シ――ッ」
二人の曲者は窓から五・六米のところまで忍び寄りました。
窓は締めたままですが、硝子の内には美しい灯が漲って、窓際の椅子に凭れた詩子の半身が、後向にはっきり浮いて居ります。何時もの簡素な束髪、美しく透き徹るような襟足と、温かい頬を少し見せて、お召の袷らしい着物の柄まで手に取るようです。
「首か、胴か」
「心臓を狙うのだ、――外してはならぬぞ」
「大丈夫、拳銃は名誉の腕前だ」
一人は拳を挙げました。ピカリと光る小型の拳銃、詩子はなんにも知らずに、大阪へ行った良人の事などを考えて居るのでしょう。編物の手も暫くは動きません。
「それッ」
ドーンと押し潰されたような、が低い音、多分消音装置がしてあるのでしょう。
同時に、恐しい音がして窓硝子が割れると、詩子の身体は少し動いたようです。二人の曲者はそれを見定める間もなく逃げてしまいました。
閃光と同時に短刀は胸へ
不思議なことに、春藤家はなんの騒も起しません。翌朝の新聞には、詩子が撃たれたとも、怪我をしたともなく、更に驚いたことに、昨夜確かに射たれた筈の詩子は、朝から機嫌よく勇美子と話したり、時々は庭へ出て来て、早咲の桜の莟を眺たりして居るではありませんか。