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ろくろくび

轆轤首

田中 貢太郎

Read 轆轤首 (ろくろくび) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,065 characters · 11 screens

Aozora Bunko

一

肥後の菊池家に磯貝平太左衛門武行と云う武士があった。頗る豪勇無雙の士であったが、主家の滅亡後、何を感じたのか仏門に入って、怪量と名乗って諸国を遍歴した。

甲斐の国を遍歴している時、某日唯ある岩山の間で日が暮れた。そこで怪量は恰好な場所を見つけて、笈をおろして横になった。

横になる間もなく月が出た。その月の光が四辺に拡がったかと思うと、その光の中から湧いて出たように黒い影が現れた。木樵らしい男だった。その男は周章てたようにして怪量の傍へ往った。

「御出家、此処で野宿なさるおつもりか、とんでもないこと、此処は恐ろしい魔所でござるぞ」

怪量はおちつきすましていた。

「それは面白い、狐が出るか、狸が出るか、それは知らぬが、左様な妖怪変化の出る場所へ野宿してこそ、諸国修行の甲斐があろうと申すものじゃ、かまわぬ、わしにかまわず、そうそう往かっしゃい」

男は怪量の顔を咎めるようにして覗きこんだ。

「大胆にも程のあるお方じゃ、此処へ野宿などされたら、それこそじゃ。さいわい近くにわしの住いがござる、荒屋ではあれど、此処よりはましじゃ、それに君子は危きに近寄らず、増上慢は、御仏もきつくお誡めのはずではござらぬか」