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ちがうへいはちろう

違う平八郎

山本 周五郎

Read 違う平八郎 (ちがうへいはちろう) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,142 characters · 27 screens

Aozora Bunko

七

信長の兵は凡そ二万三千、徳川家康は凡そ五千の兵を率いて西上、姉川南岸に陣した。――之に対して浅井長政は兵八千、越前よりの援軍朝倉景鏡の兵一万余騎で、兵数は遙に劣っていたがその意気は恐るべきものがあった。……戦は極めて機微の裡に進退していたが、遂に元亀元年六月二十八日の払暁、織田軍の先鋒が姉川を渡って迫るのを合図に、決戦の幕は切って落されたのである。

七

戦の第一段に於て朝倉勢と鉾を交えた徳川軍は、川を挾んで攻防相半ばしていたが、第二段に移るや遽に朝倉の反撃鋭く、徳川の陣は見る見る崩れたって将に家康の麾下も危く見えた。――同時に一方では、浅井軍の勇将磯野員正は手兵千五百を提げて殺到、信長の先鋒坂井政尚を撃破し、池田信輝を破り、更に第三第四の陣を粉砕して殆ど信長の本陣を侵さんとした。その時である、槍足軽の一人が、不意に信長の前へ進んで、

「上様、御安堵遊ばせ、拙者が居ります」

と槍を伏せて云った。

「――誰だ」

「私でございます」

と云うのを見ると、意外にも越前で失踪した本多平八郎である。信長は驚いた、驚くと共に呆れた。

「其方、平八ではないか」

「は、――あれ以来、森様の槍足軽として、恐れながら御馬前を守護して居ります。