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とおのへ
遠野へ
水野 葉舟
Read 遠野へ (とおのへ) by 水野 葉舟 (みずのようしゅう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 55,903 characters · 117 screens
それが今朝はすっかり凍っている。その上を飛び飛び馬車に近づくと、私は馬の丈夫そうな先き立っている方に乗ろうとした。
すると、そこに立っていた、赭顔の喰い肥った馭者が押し退けるような手真似をして、うしろのに乗れと言った。うしろのはその馬車にくらべると、馬も瘠せて小さかった。
私は知らぬ土地に来た、旅人の心弱さで、黙って二三歩歩きかえして、瘠せて肋骨の出た馬が牽いている方に乗ろうとした。その時、前の馬車の垂幕があがって、うしろ向き美しく髪を結った娘が首を出した。
私の乗った方には、二重マワシを着た長顔の鬚の白い老人と、黒羅紗の筒袖の外套を着た三十恰好の商人体の男とが乗っていた。私が入るとつづいて毛糸の襟巻をした若い男がはいって来て入口の戸を閉めた。
やがて馭者がてんでに馭者台の上に座を占めると、二台の馬車がつづいて駆け出した。軒の低いくすぶった町並がどこまでもつづく。板で囲って穴を作っているような、薄暗い花巻の町が。
私の馬車の方は、寒いのに垂幕が巻き上げてあった。馬車が町を駆けぬけると、目にひろびろとした雪の野が見えた。その中に、鉛のような色をして北上川が遙々と流れている。