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つげびと
野菊の墓
伊藤 左千夫
Read 野菊の墓 (つげびと) by 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 34,955 characters · 71 screens
むろんあしたのごちそうを作ってるのである。
シギもいつしかせんだんを去って、庭先の栗の木、柿の木に音のするほど雨も降りだした。にわかにうす暗くなって、日も暮れそうである。めがねをはずして机を立った老人は、
「源四郎……源四郎……雨がひどくなったじゃねいか、もうやめにしたらどうだい」
「ハッ」
「源四郎や」
「ハッ」
源四郎は、ただハッハッと返事をしながら、なおせっせと掃除をやってる。老人は表座敷のいろりばたに正座して、たばこをくゆらしながら門のほうを見てる。おもざし父ににて、赤味がちなお政は、かいがいしきたすきすがたにでてきて、いろりに火を移す。鉄びんを自在にかける。
「どうもほん降りになりましたね、おとっさん」
「うむ、せっかくの祭りも雨だない。えいやい休みだから」
お政はそこをおりていったが、裏のほうからすぐ長女の七つになるのを連れてきた。
「おじいさん、どうぞ柿をむいてやってください。もう暗くなったからね、おじいさんのそばにいるのだよ」
「おおまあや、この降るのにおまえどこに遊んでおった。さあおじいさんとこへきな。あしたあ祭りだからな、みんなのじゃまになっちゃいけねい。