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つげびと
野菊の墓
伊藤 左千夫
Read 野菊の墓 (つげびと) by 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 34,955 characters · 71 screens
それでいまだに一度も笑ったこともない。したがって人がどんなことしようと、それにいっこう頓着もせぬ。自分は自分だけのことをして、さっさとあがってしまう。
そうかといって、花前さんちょっとこれこれしてくれといえば、それにさからいもしない。自分のからだにだけは非常に潔癖であって、シャツとか前掛けとかいうものは毎日洗っている。
主人は笑って、それだけのことならばしごくけっこうじゃないかという。
台所のうわさはまたおもしろい。下女はだいいちに花前さんはえい人だという。変人だといってばかにするのはかわいそうだという。ご飯だといわなければ、けっして食いにこない。
一日二日まえ、下女がうっかりしてよぶのを忘れたら、ついに飯を食いにこなかった。若衆はすましたことと思ってさそわなかったとか。下女が夜おそくふと気づいて、聞きにいったら、まだ食わなかったそうで、それから食いにきた。
下女はとんだことをしたと悔やんでいた。花前が食事も水車的でいつもおなじような順序をとる。自分のときめた飯椀と汁椀とは、かならず番ごと自分で洗って飯を食べる。白いふきんと象牙のはしとをだいじに持っておって、それは人に手をつけさせない。