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のはぎ

野萩

久生 十蘭

Read 野萩 (のはぎ) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,480 characters · 21 screens

Aozora Bunko

伊作が巴里に落着いているのは、春と秋の三ヵ月くらいのもので、夏はドーヴィル、冬はニースと、一年中、めまぐるしく遊びまわっているふうだから、いまは巴里にいないのかもしれず、いるにしても、あのめんどう臭がり屋が出迎いなどしそうもない。駅の出口あたりで、途方にくれておろおろしている叔母のようすが見えるようで、思っただけでも胸がつまるようだった。克彦もしきりに心配するので、その日の午後の急行に乗り、夜おそく巴里に着いて伊作の宿へ行ってみると、案の定、どこかで遊び呆けているのだとみえ、叔母の電報は再配達の青鉛筆のマークをいくつもつけて、手紙受のガラスの箱のなかにおさまっていた。

翌朝、時間より早目に駅へ行って、ホームの目につくところに立っていると、鼠紺大小あられのお召に、ぽってりとした畝のある藍鉄の子持の羽織、阿波屋の駒下駄をはいて籠信玄をさげ、筑波山へ躑躅でも見に行くような恰好で汽車から降りてきて、

「おや、滋さん、どうしてここへ?」

と、けげんな顔をした。

「どうしてって、なによ。お出迎いにあがったんじゃありませんか」

安は、のびあがるようにして、あたりを見まわしながら、