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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,515 characters · 23 screens
「常さん、ま、御免なせえよ。」と、将棋の相手の方へ気軽に手を振った藤吉は、「こうっ、雨の降る日にゃあ、こちとら気が短えんだ。彦、さっさと吐き出しねえ。」
右手を屏風にして囲った口許を、藤吉の左鬢下へ持って行くと、後は彦兵衛の咽喉仏が暫時上下に動くばかり――。苗売りの声が舟松町を湊町の方へ近付いてくるのを、勘次は聞くともなしに放心聞いていた。
と、藤吉が突然大声を出した。
「繩張りゃあ誰だ?」
「提灯屋でげす。」
彦兵衛も口を離した。
「提灯屋なら亥之吉だろうが、亥之公なら片門前から神明金杉、ずっと飛びましては土器町、ほい、こいつあいよいよ勘弁ならねえ。」
と訳も知らずにはしゃぎ始める勘次の差出口を、
「野郎、すっ込んでろい!」と一喝しておいて、藤吉は片膝立てて彦兵衛へ向き直った。
「土地から言やあ提灯屋の持場だ。旦那衆のお声もねえのに渡りをつけずにゃ飛び込めめえ。」
「ところが親分。」と彦兵衛はごくりと一つ唾を飲み込んで、「その亥之公の願筋であっしがこうしてお迎えに――。」
「来たってえのか?」
「あい。」
「仏は?」
「新も新、四時ばかりの――。」
「うん。現場は?」