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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,319 characters · 29 screens
心得た場所と見えて逡巡もしない。
潮時を計った藤吉。
「彦!」
「わあっ!」
と、犬を脅すため、大声揚げて飛び出した。消しとぶように犬は逃げる。その後に立った二人、犬の穿った穴をじいっと睨んでとみには声も出なかった。
穴の周囲一尺ほどの土を埋めて、水雲のように這い繁っているのは、星を受けて紫に光る他なし漆の黒髪!
「――――」藤吉。
「――――」彦兵衛。
と、この刹那、けたたましい勘次の声が闇黒を衝いて背戸口から、
「お、親分、出た、出た、出た!」
五
「あれが。」
勘次の指す背戸口に地底から洩れる青白い光りが、土塊を隈取ってぼうっと霞んで、心なしか地面が少し盛り上っている。藤吉はつかつかと進んでその上に立った。足から膝まで光線に浸って、着ている物の柄さえ読める。あたりを罩める射干玉の夜陰に、なんのことはない、まこと悪夢の一場面であった。
「おうっ、彦、勘、手を貸せ。」
藤吉の声に人心ついた二人、両手と両足を一時に使って光る土を蹴散らす。万遍なく二、三寸も掘り下げると、出て来たのが伸銅のような一枚の石。その下の土中から光りが射している。
「待て!」
耳を澄ます。