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うし
鎧櫃の血
岡本 綺堂
Read 鎧櫃の血 (うし) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,702 characters · 99 screens
である。義助は二つ違いの廿三であった。
七兵衛はさっきから黙って聞いていたが、その顔色が次第に緊張して来て、微笑を含んでいるそのくちびるが固く結ばれた。彼は手に持つ煙管の火の消えるのも知らずに、熊の胆の押売りをする娘の白い顔をじっと眺めていたが、やがて突然に声をかけた。
「もし、おじいさん。その子はおまえの娘かえ、孫かえ。」
「いえ……。」と、毛皮売の男はあいまいに答えた。
「おまえの身寄りじゃあないのかえ。」と、七兵衛はまた訊いた。
「はい。」
七兵衛は無言で娘を招くと、娘はすこし躊躇しながら、その人が腰をかけている床几の前に進み寄った。七兵衛はやはり無言で、娘の右の耳の下にある一つの黒子を見つめながら、探るようにまた訊いた。
「おまえの左の二の腕に小さい青い痣がありはしないかね。」
娘は意外の問いを受けたように相手の顔をみあげた。
「あるかえ。」と、七兵衛は少しせいた。
「はい。」と、娘は小声で答えた。
「店のさきじゃあ話は出来ない。」と、七兵衛は立ちあがった。「ちょいと奥へ来てくれ。おじいさん、おまえも来てくれ。」
その様子がただならず見えたので、男も娘もまた躊躇していたが、七兵衛にせき立てられて不安らしく続いて行った。