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うし

鎧櫃の血

岡本 綺堂

Read 鎧櫃の血 (うし) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,702 characters · 99 screens

Aozora Bunko

ときどき醒めては眠り、いよいよ本当に眼をあいた時は、もう夜が明けていた。夜が明けるどころか、雨はいつの間にか止んで、夏の日が高く昇っているらしかった。

「寝過したか。」と、治三郎は舌打ちした。

夜が明けたら早々にぬけ出す筈であったのに、もう午になってしまった。捜索の手がゆるんだといっても、落武者の身で青天白日のもとを往来するわけにはゆかない。なんとか姿を変える必要がある。もう一度ここの家の者に頼んで、百姓の古着でも売って貰わなければなるまい。そう思って起きなおる途端に、小屋の外で鶏の啼き声が高くきこえた。治三郎はふとお七の夢を思い出した。

又その途端に、物置の戸ががらりとあいて、若い女の顔がみえた。はっと思ってよく視ると、それは夢に見たお七の顔ではなかった。しかもそれと同じ年頃の若い女で、おそらくここの家の娘であろう。内を覗いて、かれもはっとしたらしかった。

「早く隠れてください。」と、娘は声を忍ばせて早口に言った。

隠れる場所もないのである。捜索隊に見付かったら百年目と、かねて度胸を据えていたのであるが、さてこの場合に臨むと、治三郎はやはり隠れたいような気になって、隅の方に積んである何かの俵のかげに這い込んだ。