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しっぽうのはしら
鏡花短編集
泉 鏡花
Read 鏡花短編集 (しっぽうのはしら) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,632 characters · 32 screens
喜多八の懐中、これにきたなくもうしろを見せて、
「こいつは余計だっけ。」
「でも、あの、四合罎一本、よそから取って上げましたので、なあ。」
私は膝を拍って、感謝した。
「よし、よし、有難う。」
香のものがついて、御飯をわざわざ炊いてくれた。
これで、勘定が――道中記には肝心な処だ――二円八十銭……二人分です。
「帳場の、おかみさんに礼を言って下さい。」
やがて停車場へ出ながら視ると、旅店の裏がすぐ水田で、隣との地境、行抜けの処に、花壇があって、牡丹が咲いた。竹の垣も結わないが、遊んでいた小児たちも、いたずらはしないと見える。
ほかにも、商屋に、茶店に、一軒ずつ、庭あり、背戸あれば牡丹がある。往来の途中も、皆そうであった。かつ溝川にも、井戸端にも、傾いた軒、崩れた壁の小家にさえ、大抵皆、菖蒲、杜若を植えていた。
弁財天の御心が、自ら土地にあらわれるのであろう。
忽ち、風暗く、柳が靡いた。
停車場へ入った時は、皆待合室にいすくまったほどである。風は雪を散らしそうに寒くなった。一千年のいにしえの古戦場の威力である。天には雲と雲と戦った。