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しっぽうのはしら
鏡花短編集
泉 鏡花
Read 鏡花短編集 (しっぽうのはしら) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,632 characters · 32 screens
それが、潺々として巌に咽んで泣く谿河よりも寂しかった。
実際、この道では、自分たちのほか、人らしいものの影も見なかったのである。
そのかわり、牛が三頭、犢を一頭連れて、雌雄の、どれもずずんと大く真黒なのが、前途の細道を巴形に塞いで、悠々と遊んでいた、渦が巻くようである。
これにはたじろいだ。
「牛飼も何もいない。野放しだが大丈夫かい。……彼奴猛獣だからね。」
「何ともしゃあしましねえ。こちとら馴染だで。」
けれども、胸が細くなった。轅棒で、あの大い巻斑のある角を分けたのであるから。
「やあ、汝、……小僧も達しゃがな。あい、御免。」
敢て獣の臭さえもしないで、縦の目で優しく視ると、両方へ黒いハート形の面を分けた。が牝牛の如きは、何だか極りでも悪かったように、さらさらと雨のあとの露を散して、山吹の中へ角を隠す。
私はそれでも足を縮めた。
「ああ、漸と衣の関を通ったよ。」
全く、ほっとしたくらいである。振向いて見る勇気もなかった。
小家がちょっと両側に続いて、うんどん、お煮染、御酒などの店もあった。が、何処へも休まないで、車夫は坂の下で俥をおろした。
軒端に草の茂った、その裡に、古道具をごつごつと積んだ、暗い中に、赤絵の茶碗、皿の交った形は、大木の空洞に茨の実の溢れたような風情のある、小さな店を指して、