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しっぽうのはしら
鏡花短編集
泉 鏡花
Read 鏡花短編集 (しっぽうのはしら) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,632 characters · 32 screens
皆、参詣の人を待って、はじめて扉を開く、すぐまたあとを鎖すのである。が、宝物庫には番人がいて、経蔵には、年紀の少い出家が、火の気もなしに一人経机に対っていた。
はじめ、薬師堂に詣でて、それから宝物庫を一巡すると、ここの番人のお小僧が鍵を手にして、一条、道を隔てた丘の上に導く。……階の前に、八重桜が枝も撓に咲きつつ、かつ芝生に散って敷いたようであった。
桜は中尊寺の門内にも咲いていた。麓から上ろうとする坂の下の取着の処にも一本見事なのがあって、山中心得の条々を記した禁札と一所に、たしか「浅葱桜」という札が建っていた。けれども、それのみには限らない。処々汽車の窓から視た桜は、奥が暗くなるに従って、ぱっと冴を見せて咲いたのはなかった。薄墨、鬱金、またその浅葱と言ったような、どの桜も、皆ぽっとりとして曇って、暗い紫を帯びていた。雲が黒かったためかも知れない。
唯、階の前の花片が、折からの冷い風に、はらはらと誘われて、さっと散って、この光堂の中を、空ざまに、ひらりと紫に舞うかと思うと――羽目に浮彫した、孔雀の尾に玉を刻んで、緑青に錆びたのがなお厳に美しい、その翼を――ぱらぱらとたたいて、ちらちらと床にこぼれかかる……と宙で、黄金の巻柱の光をうけて、ぱっと金色に飜るのを見た時は、思わず驚歎の瞳を瞠った。