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かいひいちようちょう
開扉一妖帖
泉 鏡花
Read 開扉一妖帖 (かいひいちようちょう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,898 characters · 40 screens
聞いてさえ恐れをなすのに――ここも一種の鉄枴ヶ峰である。あまつさえ、目に爽かな、敷波の松、白妙の渚どころか、一毛の青いものさえない。……草も木も影もない。まだ、それでも、一階、二階、はッはッ肩で息ながら上るうちには、芝居の桟敷裏を折曲げて、縦に突立てたように――芸妓の温習にして見れば、――客の中なり、楽屋うちなり、裙模様を着けた草、櫛さした木の葉の二枚三枚は、廊下へちらちらとこぼれて来よう。心だのみの、それが仇で、人けがなさ過ぎると、虫も這わぬ。
心は轟く、脉は鳴る、酒の酔を円タクに蒸されて、汗ばんだのを、車を下りてから一度夜風にあたった。息もつかず、もうもうと四面の壁の息を吸って昇るのが草いきれに包まれながら、性の知れない、魔ものの胴中を、くり抜きに、うろついている心地がするので、たださえ心臓の苦しいのが、悪酔に嘔気がついた。身悶えをすれば吐きそうだから、引返して階下へ抜けるのさえむずかしい。
突俯して、(ただ仰向けに倒れないばかり)であった――
で、背くぐみに両膝を抱いて、動悸を圧え、潰された蜘蛛のごとくビルジングの壁際に踞んだ処は、やすものの、探偵小説の挿画に似て、われながら、浅ましく、情ない。