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くものわくころ
雲のわくころ
小川 未明
Read 雲のわくころ (くものわくころ) by 小川 未明 (おがわみめい) in Japanese with furigana. JLPT N3. Tap a word for the meaning.
N3 · intermediate · modern kanji and kana · 5,198 characters · 11 screens
冬のさむい間は、霜よけをしてやったり、また、日のよくあたるところへ、鉢を出してやったりして、早く芽が頭をだすのを、まちどおしく思ったのであります。
勇吉は、草花を愛していました。
しかし、いくら気をもんでも、その気候とならなければ、なかなか、芽を出し、咲くものでないことも、知っていました。だから、
「早く、春にならないかなあ。」と、灰色に、ものかなしく、くもった冬の空をながめて、いくたび思ったことでしょう。
そのうち、だんだん木々の小枝にも、生気のみなぎるのが感じられ、氷のように、つめたくはりつめた黒い雲が、あわただしく、うごきはじめて、冬の去っていくのがわかりました。そのときは、また、どんなにうれしかったでしょう。
いつのまにか、素焼きの鉢の中にも、庭の花園にも、やわらかな土をやぶって、こはく色の球根の芽が顔を見せ、太陽をしたって、のびようとするのでした。
ある早春の日のこと、日あたりのいい、寺の門前で、店をひらいて、草花の根や、苗を売っている男がありました。これを見た勇吉は、やまゆりの根を二つ買ってかえりました。そして、一つ大きいほうを花壇に、もう一つを、小高くなっている、つつじのはえたところへ、うえたのであります。