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せいあどうきだん
青蛙堂鬼談
岡本 綺堂
Read 青蛙堂鬼談 (せいあどうきだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 121,438 characters · 238 screens
蟹
一
ゆうべの薬をのませたら、病人もけさは非常に気分がいいと言って、彼は繰返して礼をいっていた。
前方の銃声がけさは取分けて烈しくきこえるので、僕たちもそれにうながされるように急いで身支度をした。S君のゆうべの話を再び考えるひまもなしに、僕たちは所属師団司令部の所在地へ駈けて行った。老人は門前まで送って来て、あわただしく出て行く我れわれに対して、いちいち会釈していた。
我れわれが遼陽の城外にゆき着いたのは、それから三日の後である。その後、僕は徐の家を訪問する機会がなかったが、かの老人はどうしたか、病める娘はどうしたか。妖ある家は遂にほろびたか、あるいは依然として栄えているか。今ときどきに思い出さずにはいられない。
蟹
一
第八の女は語る。
これはわたくしの祖母から聴きましたお話でございます。わたくの郷里は越後の柏崎で、祖父の代までは穀屋を商売にいたしておりましたが、父の代になりまして石油事業に関係して、店は他人に譲ってしまいました。それを譲り受けた人もまた代替りがしまして、今では別の商売になっていますが、それでも店だけは幾分か昔のすがたを残していまして、毎年の夏休みに帰省しますときには、いつも何だか懐かしいような心持で、その店をのぞいて通るのでございます。