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かばんのかい

革鞄の怪

泉 鏡花

Read 革鞄の怪 (かばんのかい) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,394 characters · 21 screens

Aozora Bunko

そして折を片手に、しばらく硝子窓に頬杖をついていたが、

「酒、酒。」

と威勢よく呼んだ、その時は先生奮然たる態度で、のぼせるほどな日に、蒼白い顔も、もう酔ったようにと勢づいて、この日向で、かれこれ燗の出来ているらしい、ペイパの乾いた壜、膚触りも暖そうな二合詰を買って、これを背広の腋へ抱えるがごとくにして席へ戻る、と忙わしく革鞄の口に手を掛けた。

私はドキリとして、おかしく時めくように胸が躍った。九段第一、否、皇国一の見世物小屋へ入った、その過般の時のように。

しかし、細目に開けた、大革鞄の、それも、わずかに口許ばかりで、彼が取出したのは一冊赤表紙の旅行案内。五十三次、木曾街道に縁のない事はないが。

それを熟と、酒も飲まずに凝視めている。

私も弁当と酒を買った。

大な蝦蟆とでもあろう事か、革鞄の吐出した第一幕が、旅行案内ばかりでは桟敷で飲むような気はしない、が蓋しそれは僭上の沙汰で。

「まず、飲もう。」

その気で、席へ腰を掛直すと、口を抜こうとした酒の香より、はッと面を打った、懐しく床しい、留南奇がある。

この高崎では、大分旅客の出入りがあった。

そこここ、疎に透いていた席が、ぎっしりになって――二等室の事で、云うまでもなく荷物が小児よりは厄介に、中には大人ほど幅をしてあちこちに挟って。