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おんぱのさつじん
音波の殺人
野村 胡堂
Read 音波の殺人 (おんぱのさつじん) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,399 characters · 30 screens
流行歌手の死
流行歌手の死
夜中の十二時――電気時計の針は音もなく翌る日の最初の時を指すと、社会部長の千種十次郎は、最後の原稿を一と纏めにして、ポンと統一部の助手の机に投りました。
「さア、これでお了いだ」
千種はガードの熱いおでんと、中野のアパートの温いベッドと――何方にしようかと考えて居りました。まる十二時間の労働で、心も身体もボロ切れのように疲れ果てて、此上は、地球そのものを爆弾にして、口火を点ずるような大事件がもちあがっても、「畜生ッ一行も書いてやるもんか」と言った自棄な気持になるのでした。
「千種さん電話ですよ」
給仕の声と電話の鈴の音が、千種十次郎の横着な夢想を破りました。
「何処だ――」
「早坂さんの声ですよ、――部長さんが居ないかっ――て」
「勇奴、又銀座で飲んでいるんだろう、――帰ったことにして置け」
「駄目ですよ、向うへ千種さんの声が聞えるんですもの」
給仕は送話器を掌で塞いで、酸ぱい顔をして見せました。
「仕様が無いなア、――又軍用金の徴発だろう」
千種十次郎は卓上電話のコードを手繰って――こいつは用度掛から厳重に禁止されていることですが、――卓の上に足を載せたまま、受話器を取上げました。