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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,984 characters · 28 screens
……それで、藤五郎の身もとはもう洗って見たか」
下ッ引の十吉は、切れッぱなれよくうなずいて、
「藤五郎は左腕に気障な腕守をしていて、いつもこいつを放したことはない。どうせその下には入墨があるってことはわかっている。……ところで、町内でたったひとり、その下を見たやつがあるンです。……左衛門町の棒手振の金蔵というのが、藤五郎が生洲へ手を入れているところへ行きあわした。どういうはずみだったか、そのとき銀の腕守の留金がはずれて生洲の中へ落っこちた。それで見る気もなく見たンですが、たしかに甲府入墨を焼切った痕のようだったというンです。金蔵はヒョイと見て、こいつはいけないと思ったもンだから、あわててわきをむいてすっ恍けていたンですが、横目で様子をうかがうと、藤五郎は水に濡れたまま大急ぎで、左手を懐へつっこんでしまったンだそうです。……これはつい一刻ほど前に訊きこんだんですが、早いほうがいいと思いましたから、亀のやつをすぐ甲府まで飛ばせてやりました」
「おお、そうか、そりゃア手廻しがよかったな。……訊くことはこれでおおかた訊いてしまったわけだが、吉兵衛というやつは、そのほかになにか人から恨まれるような筋でもねえのか」