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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,904 characters · 28 screens
いずれも暇そうな顔ぶればかりで、店の中もまだたてこまない。
アコ長は、蒸籠の蕎麦をのんびりと啜りながら、額越しにひょろ松の顔を眺め、
「だいぶお顔の色が悪いようだが、こんどは、いったいどういう筋だ」
ひょろ松は、顔へ手をやって、
「そんなに嫌な顔をしていますか。……筋というほどのたいした筋じゃないンですが、それが、まるっきり雲をつかむようなはなしなンで。きょうまでいろいろやってるンですが、どうにもアタリがつきません、弱りました」
と言って、ため息をつく。
アコ長は、気がなさそうに、
「きまり文句だの。……それにしても、そう萎えることはあるまい。喰いながらでもはなしは出来るだろう。そんな顔をしていられると、せっかくの蕎麦が不味くなる」
相棒のとど助もうなずいて、
「ひょろ松どの、ためいきばかりついておらんで、わけを話してみらっしゃい。品川砲台の大砲でも盗まれましたか」
「そんなはっきりしたメドのあるはなしじゃないンで」
「なるほど」
「……じつは、小鰭の鮨なんですが……」
「ほほう」
「このせつ、むやみに美しい娘が行きがた知れずになります」
アコ長は笑い出して、
「そりゃア、いったい、なんのこった。