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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,960 characters · 24 screens
「四人とも、ぼんのくぼに?」
「へえ、そうなんでございます」
顎十郎は、急にひきしまったような声になって、
「その道すじに篝火とか松明とか、そんなものがありましたか」
「滅相もない。古式厳格の暗闇祭。なんでそんなものがございますものか。まっ暗もまっ暗、真の闇でございます」
顎十郎は、なにかしばらく考えていたが、唐突に口を切って、
「ねえ、ひょろ松の旦那、それからとど助さん、不思議なことがあるもんだ、弓というものは相当な距離がなければ射てぬもの。それをですな、鼻をつままれてもわからないようなまっ暗な中で、一人ならず四人まで、ぼんのくぼを射抜くなどということが出来るものでしょうか」
とど助が、引きとって、
「いやア、アコ長さん、人間の眼ではとてもそんなことは出来ませんな。殺された四人が近江屋一家の者だとしたら、いよいよもって奇怪。なぜかと言って、三人ならびになって隙間もなく目白押しをして行く中から、この暗闇の中で、必要な人間だけえらんで射ころすなんぞということは、まずもって絶対に不可能」
「いかにもおっしゃる通りだ。御霊遷がすむまで待つよりほかはないが、殺されたのが近江屋の四人ならば、こりゃア、ちょっと物騒です」