Japanese reading practice

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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 18,022 characters · 36 screens

Aozora Bunko

「誰も、殺すとは申しておらぬ。……一言、言いさえすれば、助けてやると言っているのだ」

低い声だが、深い峽に反響して、言葉の端々まではっきりと聞きとれる。

下のほうでは、ほ、ほ、ほ、と笑って、

「……なんですって? 白状するなら助けてやるって?……冗談ばっかし!……あたしが、そんな甘口に乗ると思って?」

上のほうでは、また、別な声で、

「いや、かならず助けてやる。……たったひと声でいいのだ……早く言いなさい」

「そう言う声は、お庭番の村垣さんですね。……お庭番といえば将軍さま御直配の隠密。……吹上御殿の御駕籠台の縁先につくばって、えへん、とひとつ咳払いをすると、将軍さまがひとりで縁先まで出ていらして、人払いの上で密々に話をお聴きになる。……目安箱の密訴状の実否やら遠国の外様大名の政治の模様。……そうかと思うとお家騒動の報告もあります。天下の動静はお庭番の働きひとつで、どんな細かいことでも手にとるようにわかるというわけ。……ねえ、そうでしょう? ちょっと土佐を調べてこいと言われると、家へも寄らずにその場からすぐ土佐へ乗りこんで行く。……あなたの父上の村垣淡路守が薩摩を調べにいらしたときは、お庭先から出かけて行って二十五年目にやっと帰って来た。