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げかしつ
高野聖
泉 鏡花
Read 高野聖 (げかしつ) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,264 characters · 104 screens
転び墜ちぬ。渠は男の甦りたるかと想いて、心も消え消えに枝折門まで走れり。
風やや起こりて庭の木末を鳴らし、雨はぽっつりと白糸の面を打てり。
六
高岡石動間の乗り合い馬車は今ぞ立野より福岡までの途中にありて走れる。乗客の一個は煙草火を乞りし人に向かいて、雑談の口を開きぬ。
「あなたはどちらまで? へい、金沢へ、なるほど、御同様に共進会でございますか」
「さようさ、共進会も見ようと思いますが、ほかに少し。……」
渠は話好きと覚しく、
「へへ、何か公務の御用で」
その人は髭を貯えて、洋服を着けたるより、渠はかく言いしなるべし。官吏?は吸い窮めたる巻煙草を車の外に投げ棄て、次いで忙わしく唾吐きぬ。
「実は明日か、明後日あたり開くはずの公判を聴こうと思いましてね」
「へへえ、なるほど、へえ」
渠はその公判のなんたるを知らざるがごとし。かたわらにいたる旅商人は、卒然我は顔に喙を容れたり。
「ああ、なんでございますか。この夏公園で人殺しをした強盗の一件?」
髭ある人は眼を「我は顔」に転じて、
「そう。知っておいでですか」
「話には聞いておりますが、詳細事は存じませんで。