Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

Read 鳴門秘帖 (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,957 characters · 114 screens

Aozora Bunko

そこへ山番のしわぶきがきこえてきたので、世阿弥は、一八郎のいった意味を「なぜか?」と問い返してみる隙もなく、石子牢の前を離れて駈けだした。

森をぬけて断崖に出で、藤蔓にすがりながら瘤山の裾へ戻ってきた。そして、朽木丸太を架けておいた所へ出るまで、流れぎわの岩石と水草の間を這ってくると、何やら、妙なものがフト指先にふれた。

さわったと思うと、それが岩の間へ、スルリと辷って行ったので、あわてて拾い取ってみると、月明りでしかとは分らないが、どうやら古風な懐紙挟みで、金襴革の二つ折り、旅用とみえて懐紙以外なものが厚ぼったく挟んである。

「分った、これはあの竹屋三位が持ちものであろう」

世阿弥は、格別役にたつものとは思わなかったが、そのまま、ふところへ入れて、以前の所から激流を渡った。

そして、後に疑いを残さぬように、朽木を流れの中へ突き落すと、パッと白い水煙をあげて、その丸木が大蛇のように浮かんでゆく。

で、無論、世阿弥が柵を出て、石子牢にいる一八郎と話をまじえたなどということは、山詰の役人、誰一人として気がつかなかったが、永らく蟄伏していた世阿弥の心は、その日から、俄然と眼をさまして一縷の望みを江戸の空へつないだ。