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さとう
麻布襍記 ――附・自選荷風百句
永井 荷風
Read 麻布襍記 ――附・自選荷風百句 (さとう) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 37,256 characters · 77 screens
冬は正に来れるなり。雨降れば泥濘の帝都益其の特徴を発揮し自動車の泥よけ乾く間もなく待てども来らず来れども乗れぬ電車を見送って四辻の風に睾丸も縮み上る冬は正に来れり。議会開けて公園の砂利場に巡査と弥次馬の組打面白き時節は近づけり。雪の日付け込んで車掌の怠業する時節は近づけり。薬種屋の店先にマスク並べられて流行感冒の時節は迫れり。夜盗と放火の年の瀬は来れり。市会議員捕縛の噂もさして面白からず。濁江に生れしからはとてもの事に来年はもう一層輪をかけた驚天動地の怪事件。活動写真にも出来ぬ程のものこそ見たけれ見たけれと。ここに大正九年を送る。
○
御稲荷様は皆正一位大明神なり。御稲荷様にして未だ曽て従二位といい正三位というが如きものあるを聞かざる也。近頃日本国内の専門学校公私の別なく競って大学の称号を得んとし頻にその許可を文部省に迫るという。国内の専門学校皆大学と改まり生徒は角帽金ボタン教師は誰しも博士とならば其名の空聞に帰せん事恰も御稲荷様の正一位に於けるが如くなるべし。御稲荷様に油揚を上げるは正一位なるが為ならず御利益のあるかなきかに基くなり。御稲荷様既に空位によらず実力を以て油揚をせしむ。