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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
Read 黒死館殺人事件 (こくしかんさつじんじけん) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 296,741 characters · 584 screens
なかにも、もはや古典に等しいカスパー・リーマンの自企的絞死法などを持ち出してきて、死後切創が加えられる以前に、易介は自企的窒息を計ったのではないか――などという、すこぶる市井の臆測に堕したような異説も現われたくらいである。ところが、その翌朝、すなわち一月三十日、法水は突然各新聞通信社に宛てて、支倉検事と熊城捜査局長立会の下に、易介の死因を発表する旨を通告した。
法水の書斎はきわめて簡素なもので、徒らに積み重ねた書籍の山に囲まれているだけであったが、それでも、その存在は相当世間に鳴り響いていた。と云うのは、その壁面を飾るものに、現在は稀覯中の稀覯ともいう銅版画で、一六六八年版の「倫敦大火之図」が掲げられているからだった。いつもならそれを背にして、彼の最も偏奇な趣味である古今東西の大火史を、滔々と弁じ立てるのだが、その日は法水が草稿を手に扉を開くと、内部は三十人ほどの記者達で、身動きも出来ぬほどの雑沓だった。法水は騒響の鎮まるのを待って、草稿を読みはじめた。
――最初に降矢木家の給仕長川那部易介の死を発見した、その前後の顛末を概述しておこうと思う。すなわち、午後二時三十分拱廊の吊具足の中で、正式に甲冑を着した姿で窒息し、死後咽喉部に、二条の「凵」