Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
くろゆり
黒百合
泉 鏡花
Read 黒百合 (くろゆり) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 78,148 characters · 154 screens
」と袂を持つ手に力が入ると、男は心着いて探ってみたが、苦笑して
「おお、湿った手拭を入れておいたな、だらしのない、袂が濡れた。成る程女房には叱られそうなこッた。」
「あれ、あんなことをいっていらっしゃるよ。」と嬉しそうに莞爾したが、これで愁眉が開けたと見える。
「御一所に帰りましょうか。」
「別々に行こうよ、ちっと穏でないから。いや、大丈夫だ。」
「気を着けて下さいましよ。」
九
男女が前後して総曲輪へ出て、この町の角を横切って、往来の早い人中に交って見えなくなると、小児がまた四五人一団になって顕れたが、ばらばらと駈けて来て、左右に分れて、旧のごとく軒下に蹲んで隠れた。
月の色はやや青く、蜘蛛はその囲を営むのに忙しい。
その時旅籠町の通の方から、同じこの小路を抜けようとして、薄暗い中に入って来たのは、一人の美少年。
パナマの帽を前下り、目も隠れるほど深く俯向いたが、口笛を吹くでもなく、右の指の節を唇に当て、素肌に着た絹セルの単衣の衣紋を緩げ――弥蔵という奴――内懐に落した手に、何か持って一心に瞻めながら、悠々と歩を移す。小間使が言った千破矢の若君という御容子はどこへやら、これならば、不可えの、居やがるのと、いけぞんざいなことも言いそうな滝太郎。