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くろゆり
黒百合
泉 鏡花
Read 黒百合 (くろゆり) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 78,148 characters · 154 screens
洞の中は広く、滝太郎はかえって寛いで立っている。ほとんどその半身を蔽うまで、堆い草の葉活々として冷たそうに露を溢さぬ浅翠の中に、萌葱、紅、薄黄色、幻のような早咲の秋草が、色も鮮麗に映って、今踏込むべき黒々とした土の色も見えたのである。
「花室かい、綺麗だね。」
「入口は花室だ、まだずっと奥があるよ。これからつき当って曲るんだ、待っといで、暗いからな。」
燃え尽して赤い棒になった早附木を棄てて、お兼を草花の中に残して、滝太郎は暗中に放れて去る。
お兼は気を鎮めて洞の口に立っていたが、たちまち慌しく呼んだ。
「ちょいと……ちょいと、ちょいと。」
音も聞えず。お兼は尋常ならず声を揚げて、
「滝さん、おい、ちょいと、滝さん。」
「おう、」と応えて、洞穴の隅の一方に少年の顔は顕れた。早く既に一個角燈に類した、あらかじめそこに用意をしてあるらしい灯を手にしている。
お兼は走り寄って、附着いて、
「恐しい音がする、何だい、大変な響だね。地面を抉り取るような音が聞えるじゃあないか。」
いかにも洞の中は、ただこれ一条の大瀑布あって地の下に漲るがごとき、凄じい音が聞えるのである。