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あしびのはな
あしびの花
土田 杏村
Read あしびの花 (あしびのはな) by 土田 杏村 (つちだきょうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 1,520 characters · 3 screens
ここの馬酔木だけは全く奈良の見ものである。
この辺一帯、即ち三笠山の馬酔木は、既に一千年余の歴史を持つてゐる。万葉集の中にも馬酔木の歌は二十首許り這入つてゐる。中でも有名なのは、天平宝字二年二月、式部大輔中臣清麻呂の宅で宴会のあつた時、来会者の大伴家持らが目を山斎に属して作つた歌三首であるが、それは芸術的に見ても馬酔木の感じを立派に出してゐるものだ。
をしのすむ君がこの山斎けふ見れば馬酔木の花もさきにけるかも
池水にかげさへ見えてさきにほふ馬酔木の花を袖に扱入れな
いそかげの見ゆる池水照るまでにさけるあしびの散らまく惜しも
ところがこれらの作に歌はれた馬酔木は、今の所謂あしびではないといふ疑ひが昔からある。早く既に契冲がその疑ひを出した。この宴会は二月に開かれて居り、これらの歌の次にある作の詞書には二月十日とあるから、少くもこれらの歌は、二月初旬に作られたとしなければならぬが、馬酔木の花はそんなに早くは咲かないといふのだ。守部はこの歌の「にほふ」「てる」両語を拠り処として、色の赤い花と見るが至当だとし、木瓜の花らしいと結論した。雅澄は、この歌の作られた前年十二月十九日が立春となつてゐるから、この年は気候も早く、二月初旬にはもう陽地に馬酔木は咲いてゐたと論じ、あしび説を支持した。