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あらくれ
あらくれ
徳田 秋声
Read あらくれ by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 119,451 characters · 236 screens
お島は硬ばった神経を、強いておさえるようにして、そう言いながら謝礼金の包を前においた。
もう三十七八ともみえる女は、その時も綺麗に小皺の寄った荒んだ顔に薄化粧などをして、古いお召の被布姿で来ていたが、お島の権幕に怯じおそれたように、悄々出ていった。
「この莫迦!」
二階へ駈あがって往ったお島は、いきなり小野田に浴せかけた。毎日鬢や前髪を大きくふっくらと取った丸髷姿で出ていた彼女は、大きな紋のついた羽織もぬがずに、外眦をきりきりさせてそこに突立っていた。
「髯なんかはやして、あんなものにでれでれしているなんて、お前さんも余程な薄野呂だね」
お島はそう言いながら、そこにあった花屑を取あげて、のそりとしている小野田の顔へ叩きつけた。吊あがったような充血した目に、涙がにじみ出ていた。
「何をする」
小野田も怒りだして、そこにあった水差を取ってお島に投げつけた。彼女の御召の小袖から、水がだらだらと垂れた。
負けぬ気になって、お島も床の間に活かったばかりの花を顛覆えして、へし折りへし折りして小野田に投りつけた。
劇しい格闘が、直に二人のあいだに初まった。小野田が力づよい手を弛めたときには、彼女の鬢がばらばらに紊れていた。