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あるかんぬしのはなし
ある神主の話
田中 貢太郎
Read ある神主の話 (あるかんぬしのはなし) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,116 characters · 10 screens
「そうか、それなら、これからおつきあいをしよう、さあ、おあがり」
「そんじゃ、あげてもらおうか」
小柄な男はそう云って地炉の傍へあがった。
「お前さん、国はどこだね」
「東の方だ、東の方からぶらぶらやって来たが、この辺はいい処だね、漁もあるだろう」
「もとはあったが、近比はめっきり無くなった」
「そうかなあ」
「それにこの二三日は、すこしもないので、今晩はすきな酒も廃めている」
「そうか、それはいかんなあ」
「二尺の鯉を二疋獲ってくれと、二三日前から頼まれて、この広い湖へ片っ端から網を入れているが、鯉は愚か、雑魚もろくろくかかりゃしない」
「そんなことは無い、私は近比来た者だが、それでも鯉の二疋や三疋は、買手を待たして置いても獲って来る」
勘作は出まかせなことを云う対手がおかしくてたまらなかった。彼は大声で笑いだした。
「お前さんが嘘と思うなら、私がこれから往って獲って来てやろう、網はどこにあるかな」
「網は外の柿の木に乾してあるが、お前さん、狐にでも撮まれているじゃないか、俺はこの浦で二十年来漁師をやっているが、買手を待たして置いて獲る程鯉は獲れないよ」
「嘘と思うなら私が獲って来てやろう、待ってるがいい」