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おせん
おせん
邦枝 完二
Read おせん by 邦枝 完二 (くにえだかんじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 74,074 characters · 148 screens
速くおこしねえ」
「へえ」
「それから何んだぜ。火がおこったら、直ぐに行燈を掃除しときねえよ。こんな日ァ、いつもより日の暮れるのが、ぐっと早えからの」
「へえ」
「ふん。何をいっても、張合いのねえ野郎だ。飯は腹一杯食わせてあるはずだに。もっとしっかり返事をしねえ」
「かしこまりました」
「糠に釘ッてな、おめえのこった。――火のおこるまで一服やるから、その煙草入を、こっちへよこしねえ」
「へえ」
「なぜ煙管を取らねえんだ」
「へえ」
「それ、蛍火ほどの火もねえじゃねえか。何んで煙草をつけるんだ」
相手は黙々とした少年だが、由斎は、たとえにある箸の揚げおろしに、何か小言をいわないではいられない性分なのであろう。殆んど立続けに口小言をいいながら、胡坐の上にかけた古い浅黄のきれをはずすと、火口箱を引き寄せて、鉄の長煙管をぐつと銜えた。
勝手元では、頻りにばたばたと七輪の下を煽ぐ、団扇の音が聞えていた。
その団扇の音を、じりじりと妙にいら立つ耳で聞きながら、由斎は前に立てかけている、等身大に近い女の人形を、睨めるように眺めていたが、ふと何か思い出したのであろう。あたり憚らぬ声で勝手元へ向って叫んだ。