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おばなさわ
おばな沢
山本 周五郎
Read おばな沢 (おばなさわ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 22,479 characters · 45 screens
「――では、ではお兄さまには」
節子は声が詰り、躯がふるえた。
「――相良さまの、したことでないという、証拠がございますか」
「おまえの用箪笥の金をさきに聞こう、紙に包んで三つ、合わせて金七十枚ある、おまえが重態になったとき、お母さまがそこに隠してあるのをみつけた、あれはどういう金だ」
節子は睡をのんだ。固い物が喉へこみあげて来て、すぐには口がきけなかった。あれは秘密に預った金である。ひとには云わない約束であった。しかし今は云わなければならない、――節子はこう思って、英之助から預った事情をはっきりと語った。
「そんなことは嘘だ、そんなことはありはしない、おまえはなにも知らないんだ」
泰馬は怒っていた態度をやわらげ、こんどはずっとおちついた調子で云った。
「おまえがいちばん不審なのは、あんな時刻に戸田が、どうして一人で外へ出たか、なぜ相良がそれに気づいて捜しに出たかという点だろう」
「一人で出ることが危険だということは、戸田がいちばんよく知っていたと思います」
「それを知っていて、彼は出なければならなかった。夜中か、明け方の暗いうちに、どうしても一人で出る必要が戸田にあったのだ」