Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

おみつかんざし

お美津簪

山本 周五郎

Read お美津簪 (おみつかんざし) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,158 characters · 26 screens

Aozora Bunko

――その足音を聞きすまして、正吉は急に起上ると、何を思ったかそのまま格子口の方へ出て行った。

「おや、どうかしたの正さん」

女の呼ぶ声がした、「――正さん、どうかしたのかえ、……正さん※(感嘆符二つ、1-8-75)」正吉は戸外へとび出していた。

――逃げるんだ、今夜こそこの泥沼の中から逃げるんだ!

外は凩の吹く月夜だった。一丁ばかりは夢中で走った、然しいきなり冷たい風の中を走ったので、大川端まで来ると再び烈しい咳がこみあげ、河岸っぷちに積んであった材木の上へ、殆どぶっ倒れるようにして、息も絶え絶えに咳きこんだ。――そしてようやくそれが鎮まったときには、体中がびっしょり膏汗で、暫くは身動きも出来ぬ有様だった。

川波がひたひたと音をたてていた、空高く鳥の声がするので、仰いで見ると遙かに、雁の群が西へ西へと渡っていた。

「――あの雁の行く方に長崎がある」

正吉は悲しげに呟いた。

「長崎、……長崎、――おっかさん※(感嘆符二つ、1-8-75)」

不意に、全く不意に、正吉の胸へ熱病のような故郷恋いの念がつきあげて来た。――香焼島に寄せる潮の音が聞える、出島の異人館の旗が見える。