Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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おみつかんざし

お美津簪

山本 周五郎

Read お美津簪 (おみつかんざし) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,158 characters · 26 screens

Aozora Bunko

「あたしもう死ぬ覚悟でいたわ」

「ここまで来ればもう大丈夫です」

正吉は暗い街辻で喘ぎながら足を停めた、脾腹の傷を覚られまいとする苦しさ、着物の下を伝わって血は流れ続けている。

「ここからは寮も近い、お美津さま、早く貴女は帰って下さい」

「あたしが独りで帰ると思って?」

お美津はすり寄って、

「あたしは厭、おまえと一緒でなければお美津は生きる甲斐もないのよ。正さん、――あたしがどんなに待っていたか、おまえは知らないでしょう」

「…………」

「ひどい、ひどい、正さん」

脾腹の傷より、もっと烈しい痛みが、きりきりと正吉の胸を抉るのだった。――いけない、正吉は強く頭を振った、「お美津にだけはそんな姿を見せたくない」そう云った茂兵衛の言葉が、鋭く鋭く思い出された。

耐え難そうに咽びあげるお美津から、正吉は静かに身を離しながら云った。

「お帰り下さい、お美津さま」

「――――」

「正吉も長崎へ帰ります、そして――真人間に、昔の正吉に生れ変って来ます。私は、悪い夢を見ました」

「正さん!」

「此の世にあるとも思えない、悪い夢でした。けれどその夢も醒めました、故郷へ帰って、この汚れた体を浄めて来ます。