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ぐうたらどうちゅうき
ぐうたら道中記
佐々木 邦
Read ぐうたら道中記 (ぐうたらどうちゅうき) by 佐々木 邦 (ささきくに) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 164,113 characters · 332 screens
やはり陸軍衛戍病院御用です」
と何処までも家業を官辺に結びつけようと努めた。
「病院へ納めると……成程、分りました。薬種商ですね?」
「否、薬種じゃありません。もっと反対のものです」
「反対のもの? 一体何ですか?」
「拵えて病院へ納めるのです……棺桶です」
「あ、分りました。宜しい/\。もう宜しい」
と先生は妙に慌てゝ土屋君を坐らせた。皆はクス/\笑い出した。
僕は土屋君の努力を甚だ面白いと思った。葬具店は必要欠き難いこと米屋同様だ。否、パン食をやっていて米屋のお世話にならない連中でも葬儀社の御厄介には早晩ならざるを得ないのだから、白米商よりも更に一層正業だといって差支ない。土屋君だってこの辺の道理は充分弁えているのだが、何分縁起の好くない商売柄で、等しく正業でも此方から催促的に御用を伺うべき筋のものでない。「今日は、葬儀社でござい」等と言えば叩きされる危険がある。そこで土屋君も露骨には答え兼ねて旁多少の箔をつけるために、日頃取引関係のある陸軍を担ぎ出したのだ。唯迷惑なのは衛戍病院で、彼処では患者が毎日コロ/\死ぬとしか受取れない。しかし問題の如何に拘らず無暗に官憲の力を藉りたがるのは日本人の通有性だから、軍医諸賢の思惑は兎に角、土屋君ばかりを咎めるのは無理だろう。