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こどもふどき

こども風土記・母の手毬歌

柳田 国男

Read こども風土記・母の手毬歌 (こどもふどき) by 柳田 国男 (やなぎたくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 142,761 characters · 278 screens

Aozora Bunko

ところが今から三十年まえ、まだ東京の郊外が武蔵野であったころに、今の多摩墓地のすこし東のほうに、たった一軒だけこの萱葺きの家を新築した人があった。そのじぶんには、まだ武蔵野は薄だらけであったが、つぎの葺きかえの時のことを考えたものか、この家では周囲を広々とかこいこんで、いちめんに萱を生やしていた。おもしろい考えだなと思って、散歩のついでにはおりおり通って見たが、どうも長くは住みつづけていなかったようである。このようなことをすれば、出入りに不便で、さびしくてしかたがなく、第一に火の用心がわるい。地面が安ければあそばせて置いてもよいようなものだが、いくら萱野でも、管理にはやはり手数をようする。春はいちどか二度火を入れなければならぬし、秋はまたすっかり苅り取ってしまわねばならぬ。それをおこたると古株はすぐ弱って、ほかの地へ出店を出してしまうからで、いつでも葺き萱を得られるようにするには、やはりユイの協力は欠くべからざるものであった。むりに一人でこういう家を維持しようとする者は、金にこまらぬ人のなかにはまだあるかも知らぬが、それらはびっくりするような高い価を、以前は無代であった萱のためにはらっている。