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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
Read 『たぬき汁』以後 (あわもりものがたり) by 佐藤 垢石 (さとうこうせき) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 118,470 characters · 244 screens
天の恵みである。家賃が三十円の敷金が三つの九十円。まだ百円あまり残っている。一日、大工を雇ってきて、店をめし屋風に改造した。
三
米が二斗で、四円六十銭、それに野菜、香のもの、魚類に牛肉、味噌醤油まで仕入れて二十円とはかからない。牛肉は、こま切れであるが、これで牛めしもやる方針である。
そこで、問題であるのは酒類である。女房は酒類を店に置くと、あなたが召し上がってしまうから、いけないという。私はめし屋に酒類がなければ、しょうばいにならぬと主張する。そこへ、近所の酒問屋から番頭が注文取りにきた。菰冠りの、にせ正宗四斗樽一本を、金四十円で入れましょうというのだ。
正宗と名がついていれば、にせでもなんでもよろしい。店の土間の正面に、菰冠りがどっしりと鎮座したのである。まことに重厚。華麗な風景だ。懐中に残り少しとは言え、しょうばいするのに、貧乏徳利で小買いをなし、ひそかに徳利に移して、あきないをしたのでは威勢が悪い。客の見物している前で、きゆぅっと呑口をひねらねば調子が出ぬ。これでまず、お店繁盛疑いなし。
翌日、開業。午前六時には、ちゃんと女房がめしを炊いて、いつ客がご入来してもよろしいよう準備し、夜は十時までしょうばいした。