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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
Read ちくしょう谷 (ちくしょうだに) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 69,788 characters · 138 screens
帯刀は頷いた、「どうかそうあってもらいたい、わかってくれて有難う」
隼人は黙って会釈を返した。
兄の織部の死は江戸で聞いた。兄は勘定奉行を勤めていたが、部下の西沢半四郎という者と決闘をして即死した。納戸方の斎藤又兵衛という者が立会い人で、西沢と共に与田滝三郎になのって出、ありのままに事実を申し述べた。与田は中老の筆頭で、すぐ小池帯刀に連絡し、北の馬場へいって現場の検視をし、織部の遺躰を朝田家へ運んだうえ、妻のきい女に仔細を告げた。遺躰には突き傷が二カ所あり、その一が心臓を貫いていた。――この藩では、立会い人の付いた決闘は正当なものと認められており、たとえ死者が出ても、法的に罪に問われることはなかった。但しこの場合には織部が温和な性格で、これまで人と争った例が殆んどなく、知友のあいだでもっとも信頼されていたため、どうして決闘などをしたかというその原因が疑われた。当の西沢は訊問に対して、侍のいちぶんが立たないから決闘したのであり、理由は故人の名誉にかかわるから云えない、と答えるだけであった。また斎藤又兵衛は、二人に頼まれてやむなく立会い人になったので、決闘の理由はなにも知らない、ということであった。